ソルトレイクへ向かう田舎ハイウェイの交差点際に、ベローンと大きなパンケーキを出す店があった。ブツブツの、例の酸味のあるブルーベリーがそば粉入りの生地にまぜられ、それは日本で目にする紫色のソースをかけて一丁あがりという簡単なものではなく、しっかりしたパンケーキ屋なのである。
旅行雑誌に書いてあった。ああいった類の情報はあたりもあればハズレもある。ハズされるのを覚悟でそういった情報に踊らされるわけである。三ツ星レストラン情報ではないので、つまり私ども貧乏人相手なので重要度も低いが、やはり知らない土地なので多少なりとも信じようとしてしまう。
ここのパンケーキは美味かった。ブツブツパンケーキの横にベーコンの焼いたのが2,3枚ならべてある。妙に焦げていたのが気にはなるが、どうもこれがアメリカンスタイルらしい。あのブツブツパンケーキを3口食し、カリカリベーコン少々口にする。これが絶妙なコンビネーションなわけだ。しかししょっぱいベーコンはあっという間に消える。それほどパンケーキの量が多い。最初に目の前に出てきたとき、「うっ!」っと一瞬ひるんだ。お皿に盛られたパンケーキは、圧倒的な量と存在感をお客にあびせていた。
当然、私たちは残ったパンケーキを持って帰った。亭主と私の残りものを崩れたピザ箱のようなものに“ぐわっと”詰め、意気ようようと店をでた。
夕方私は小腹をへらしこのテイクアウトを車の中で広げた。そして食べてみた。「まずい・・・。」 あの皿から湯気とともにたちあがるアメリカの勢いはなかった。しばらくし、宿泊場所について「パンケーキどこやった? あれ、あれ」と唱え、夫は例の、残りものテイクアウトを食べだした。もったいないと思ったか、とんでもない勢いでかぶりつきだしたのだ。はて、無理してなのか、ほんとうに美味しかったのか。本人いわく、「旅先ではすべての価値観がかわる。すべては美味くなる。」ともっともらしく語っていた。すっかり残りのパンケーキを平らげのだった。
アリゾナの空港でのハンバーガーもデカかった。確かキングスバーガーだったと思う。食べても食べても小さくなっていかない。和会席の一人前のお盆の大きさだ。両手で支えながら食べ続けたが、とうとう残してしまった。なんだか惨敗したような気分だった。
ロスで食べたサラダには驚いた。チーズケーキファクトリーというお店。もうバケツにたんと盛られたサラダを思い浮かべてほしい。サラダボールを二まわりほど大きくし、高さを深くしたものをしばらく待たされたのち目の前におかれた。これは一人前なのだ。腹がへっていたので驚きはしたものの、中腰になりそのバケツサラダをいただいた。
“どうだ、日本人おなごの心いきを見よっ”などと心の中で言っていた。誰も気にしてはくれなかった・・・が。
アメリカ産の人間はもちろんのこと、動物や鳥、そこかしこのものまで大食漢なのであろうか。なんたって、びっくりスケールの食体験であった。(塚本和江記)