極小さく野鳥を撮る
鳥が極小さく撮れても、生態写真は生態写真である。
その昔、やむなく標準レンズで撮るのであるから、何鳥が撮れたのかは「撮った人にしかわからない」写真が多い。中には、「撮った人にもわからない」生態写真(?)も。DPE屋さんから現像が上がってくるまで1週間ほどかかるので、ご本人が何を撮ったのか忘れてしまっている場合もある。
望遠レンズもままならなかった時代には、仲間内でそんな生態写真に花を咲かせる時代があったのだ。
経験から学んだのは、鳥が小さく写っているが故にダメな写真とは限らない、むしろ傑作も狙えるということ。その持論は、今も固持している。ダメどころか、画面にワンポイント小さく鳥が写っていて、なお見ていて飽きのこない生態写真に、私は憧れさえ抱いている。小さな鳥がなんの仲間かわかるように写っていればシメタッものだし、種類が特定できるように撮れていれば最高である。
ネガではゴミのような鳥
「今月の1枚」は、小さく撮れた写真の一例、1932年に撮られた飛翔中の2羽のトキである。
[今月の2枚目]
2羽のトキが写っている手札判ネガ(75×100mm)
山階鳥類研究所所蔵 ID no.: AVSK_NM_1734
原板を見ると、楊枝の先でひっかいた位の2つの黒点が、トキとは思えない。原板に付着したゴミのような2つの点をトリミングして伸ばしたのが「今月の1枚」である。日本の生態写真・自然ドキュメンタリー映画監督の祖、下村兼史(1903-1967)が、85年前に恐らく最初にカメラに捉えた野生のトキで、生態写真史上記録的な1枚なのである。
写真は、内田清之助 1937. 「脊椎動物大系 鳥類」三省堂、東京. p.154;文部省 1938「天然記念物調査報告 動物之部」 第三輯 p.7 など六つの書著に掲載されている。
このトキの写真を見て驚かされるのは、2つの白点がそれぞれ翼をいい感じにひろげていて、2羽の位置関係も“決めて”いる。このチャンスを、これだけ遠くからでもちゃんと捉えていることである。写っている鳥は小さくとも、棲息環境をとりいれて、とりいれざるを得ないが、歴史に残る1枚となっている。
鳥が小さく撮れた写眞の魅力
兼史のこの1枚を見ると、鳥は小さくしか撮れなくとも、諦めてはいけないことを教えてくれる。トキならずとも、一枚の写真を作るのだという意欲と期待感を忘れてはいけないのだ。標準レンズで撮れる作品を狙うのである。
限度はある。その限度を超える“絵になる写真にする技”が、カメラセンスではないのかと考えている。
ドアップの傑作写真とはまた別の「味」をもっていて、写っている鳥が小さいが故に、自然に息づく鳥の姿をより自然に伝える写真。魅力的ではないか。しかし、鳥を小さく撮るのも、簡単そうで難しいことがわかる。それも、アップの写真同様、一つの挑戦であろう。楽しき哉、生態写真撮影!
●(公財)山階鳥類研究所は、
2018年秋に都内で下村兼史の写真展を主催します。
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