グループのリーダー格の高野伸二さん(後に『フィールドガイド日本の野鳥』など多くのガイドブックを著わした識別男)が、「どうもジシギの中に次列風切の外側に白線の出るのがいるなぁ・・・。」ある日つぶやいた。高野さんの鋭いフィールド感が言わせた一言。
確かに次列外側に白線の出るジシギは小型のものが多く、体長の割に嘴が長い、飛翔も軽快で翼下面が他のジシギより淡いようだ。もしやフィールドマーク(そこを見れば種類が識別できる決め手となる色彩、形、斑、線など)では? 一同、色めいた。
フィールドでの検証が熱をおびる。山階鳥類研究所へ走って標本を調べる。おお! タシギはみんな次列風切に細いが明瞭な白線がでるのだ。飛べばタシギだけは識別できそうだ。
今日ではフィールドガイドを開けば当たり前に解説されているこのタシギの白線が、かつては野外識別上の大発見だったのである。水辺の草つきに潜むタシギとなると相変わらず識別の手の打ちようがなかった。だが、「飛べばタシギだとわかるぞぉ!」これは、新浜グループのメンバーにとって大きな一歩前進。満足感は極めて大きかった。
他のジシギ類識別の葛藤は依然つづいた。古い文献にあるジシギ類の識別法も勉強した。フィールドでの検証が続いた。なにかフィールドマークがありそうだけど・・・。やっぱり不可能なのかなぁ。挫折感と希望が交錯する。
そんなある日、ジシギ類を採集しているある鳥学者の言を耳にした。オオジシギと思って撃ち落とすとチュウジシギだった。チュウジシギと思ってズドン。オオジシギだった。10数例とも同じような結果に、ついに「野外識別はムリや。」それを知ったグループの面々、とうとう地面にいるジシギ類の野外識別なんかやっぱり不可能かぁと思うようになった。貪欲なまでの識別魂は急速に萎えた。
以来、フィールドノートには、タシギとわかる時以外は“ジシギ類“と一括して記録するようになったのである。
今や、新浜グループ時代とは知識も識別技術も機材も格段に違うレベルで野外識別するバードウオッチャーが増え、かなりの人がジシギ類を容易に(?)識別しているようだ。シーズンともなるとジシギ専門に“追っかけ”をして、見事な写真を添付してくれる目利き腕利きの“ジシギハンター”HKさんもおられる。いつも私の重い尻を後押ししてくださり有難いが、進歩のない私の心中穏やかではない。悔しいことに、言われても写真のジシギでさえ識別できない・・・。
昔の識別魂に火をつけようとしてつかない、このもどかしさ。ジシギシーズンがまた一つ過ぎようとしている。
「スズメ色のシギ、まだ諦めてないの?」カミさんがなんと言おうと、一見茶色のジシギ類の識別点を高野さんへの冥土の土産にしなくちゃ気がおさまらない心境ではある。(塚本洋三記)